シャネル・ピグマリオン・デイズのプロジェクトで出会い、室内楽を通して共に研鑽を積んできた江崎萌子さんと初めてデュオをしたのは2020年冬。その時演奏したベートーヴェンの10番のソナタは、私の人生において決して忘れることのできない特別な体験となりました。そんな彼女と、シューマン、ブラームスのソナタ全曲に挑戦したのが昨年のこと。究極の室内楽-デュオで共に音楽に向き合える喜びを感じると共に、「この先も様々なレパートリーを彼女と一つずつ大切に増やしていきたい」という思いが強くなりました。
彼女と一緒に作品と向き合っていると、作曲家やその作品との対話に心を注ぐことができる。そもそも、自分にとって室内楽が、音楽が、どのようなものであるのか、無意識のうちに思念してしまう程、演奏しながら精神の深みへと潜ってゆくような感覚を何度も体験しました。
昨年シャネル・ネクサス・ホールでブラームス全曲に挑戦した後、次なる頂は、、と2人の心が向かったのはベートーヴェン。私たちデュオの出発点の作曲家であり、これからの長い旅路の道先案内人です。きっと忘れられない旅となることでしょう。
私たちのこの大きな挑戦を心から応援し、見守り、背中を押してくださったシャネル・ピグマリオン・デイズの皆さまに感謝しながら、出発したいと思います。
石上 真由子
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ベートーヴェンヴァイオリンソナタ第10番に特別な思いを抱いたのは、2010年10月、カントロフ氏と上田晴子先生が浜離宮朝日ホールで演奏されたときでした。長年にわたる共演の一時終着点としての演奏に、作曲家の新たな真骨頂をみるようで息を呑んだことを覚えています。
2020年に、石上真由子さんと初めてデュオで共演する機会に恵まれました。曲目はなんとベートーヴェン第10番。彼女と演奏するうちに、水に体を委ねるかのような一体感とこのデュオへの確信を得て、第10番がますます掛け替えのない一曲となりました。
そして昨年12月、シャネル・ネクサス・ホールにてブラームスソナタ全曲に取り組んだ後、わたしたちが自然と志したのは、ベートーヴェンソナタ全曲でした。今目の前にエベレストのように聳え立つベートーヴェン。人生で何度とは経験できないこの挑戦を後押ししてくださるシャネルの皆さまに、心から感謝します。再び第10番に辿り着いた先で、ふたりでどんな空気が吸えるのか、とても楽しみです。
江崎 萌子