EXHIBITION
D’un jour à l’autre
巡りゆく日々 サラ ムーン写真展
2018.4.4 WED - 5.4 FRI
12:00 - 19:30 無休 入場無料
INTRODUCTION
シャネル・ネクサス・ホールは、2018年度の展覧会第二弾として、フランスを代表する女性写真家、サラ ムーンの個展「D’un jour à l’autre 巡りゆく日々」を開催いたします。
現代において最も注目される写真家の一人であり、また映像作家としても高く評価されるサラ ムーンは、30年以上にわたり世界の第一線で活躍し、独自の幻想的かつ深淵なイメージを創出してきました。
そのサラ ムーン自身が構成を手がける本展覧会は、日本初公開作を中心に、新作も含めた約100点が出展される予定です。また、タイトルが示す通り “時の流れ”が重要なテーマとなっていますが、これはサラ ムーンが作家人生を通じて追究してきた主要な関心ごとの一つでもあります。優雅なたたずまいのモデルやファッション、鳥や象などの動物たち、自然の風景等々を写しながら、時の儚さを示唆し、追憶やノスタルジーを観る者の心に喚起させる独自の作品世界は、まさにサラ ムーンのみが表現しえるものです。
作品に描き出す物語について、サラ ムーンは次のように語っています。
「私が写真に表現できるのは、対象が何であれ、それを見るという経験を通して自分が感じるエコー(こだま)だけなのです。だから、実際の現実とは違っています。
自分の人生を語り始めたら、それはもうフィクションであるように、ものごとはいったん語られてしまえば、別の物語に変容してしまうもの。それは、写真も同じなのです。」
ARTIST
サラ ムーン
写真家、映像作家
1960年代にモデルとして活躍した後、70年代にはファッションや広告の分野で写真家としてのキャリアをスタートさせ、シャネルを含むトップメゾンの仕事に携わった。1985年に作家としての作品制作を始め、その10年後に「パリ写真大賞」を受賞。写真集『Coincidences』(Delpire 2001年)、『CIRCUS』(何必館・京都現代美術館 2003年)、『Sarah Moon 1,2,3,4,5,』(Delpire 2008年、優れた写真集を選出するフランスの「ナダール賞」受賞) など数多くの著作がある。ロンドン、ニューヨーク、ストックホルム、モスクワ、上海等、世界各地で個展を開催。映像作品としては「ミシシッピー・ワン」(1991年) 、アンリ カルティエ=ブレッソンを追ったドキュメンタリー「Henri Cartier-Bresson Point d’interrogation」(1995年)、「Robert Delpire Le montreur d’images」(2009年)、「Lillian Bassman There is something about Lillian」(2002年)などがある。詩人のシャルル ペローや童話作家のアンデルセンにインスパイアされたショートフィルム5作品の他、最新の脚本・監督作品は「5h-5」(2012年)。
REPORT
サラ ムーン インタビュー
――どうして、いつもそのようにパワフルなのですか?
エネルギッシュだと思われているのであれば、まず健康だからでしょうか。自分くらいの年代になると病気がちな人も多いけれど、たぶん私は運がいいのです。
タバコはたくさん吸います。あまり食べないし、あまり眠らない。また、多くの仕事をこなします。
たくさん働くのは、頭のためにいいと思う。タバコをたくさん吸うのは、呼吸のためにいい。あまり食べないのは、空腹を感じることがないから。お酒はまったく飲みません。
――パワフルなだけでなく、いつもエレガントでいらっしゃいますね。
20年くらい前だったでしょうか、一人の女性についての映画を撮ったことがありました。その女性は貧しくて、年老いていたけれど、とてもエレガントな人でした。その女性に「エレガントですね」と言ったら、まだ若かった私にこう答えてくれました。「あなたの年齢だと、気に入られるように服を着る。でも私の歳になると、嫌われないために服を着る」と。それをいつも思い出すのです。
歳をとるにつれて、たしかに装い方は変わってゆくものだと思う。ただ、私は常にモードの世界にいて、服が好きだったし、今もそれは変わりません。
――なぜ、写真家になろうと思ったのですか?
私はただ一歩一歩、目の前にあった次のステップを歩んできただけで、「写真家になる」と思ったわけではないのです。ただ、写真を撮り進めるにつれ、そして少しずつうまくできるようになるにつれて、興味も深まっていき、また好きになっていきました。そして、自分のスタイルを見いだしていきました。
――60年代にはモデルをされていて、70年代から写真を始められたんですね?
若い頃、モデルをしていた時代に多くの写真家たちとの出会いがあり、そのモデル時代の後半、1968〜69年頃には友人たちを写真に撮り始めていました。それからすぐに、撮影の依頼が来るようになったのです。
――撮影の際にもっとも大切にしていることは何ですか?
まずは、シャッターを切りたいという気持ちになること。
あとは運。いい時に、いい場所にいること。そして、感動を覚えること。
――独自の作品世界について、ぜひお教えください。あの幻想的なスタイルを確立するうえで、何か刺激を受けたものはあるのでしょうか?
それはよく受ける質問です。ヴィクトル ユゴーの言葉に、「フォルムは、(底にあるものが)表面に現れたもの」(註:‘La forme, c’est le fond qui remonte à la surface.’)というものがありますが、私にとってこの“底にあるもの”が何かを説明するのは難しい。なぜなら、それはいつも同じではないから。
私はまず、自分が見ている対象物と私自身との間に反響するエコー(こだま)を注意深く感じとって、そのあとで作品へと昇華させています。毎回、私が感じたことを翻訳しているともいえますが、その作業の過程を説明することは難しいのです。なぜなら、すべてが一体だから。
――作品の制作でもっとも大切にしていることは何ですか?
表現すること。どんな手段をとるとしても、それは同じです。
私が写真に表現できるのは、対象が何であれ、それを見るという経験を通して自分が感じるエコー(こだま)だけなのです。だから、実際の現実とは違っています。
自分の人生を語り始めたら、それはもうフィクションであるように、ものごとはいったん語られてしまえば、別の物語に変容してしまうもの。それは、写真も同じなのです。
――映像作品も手がけるようになったのはなぜですか?
写真でもそうですが、私がいつも興味をもっているのはストーリーを語ることです。物語を語る写真が好きなのですが、直感的にいつも映画を作りたいという欲求がありました。映画では、毎秒25枚の画像で語ることができます。始まりがあって、終わりがある。その間にドラマの移り変わりがあります。映画は役者がいて、音と画像があり、編集の作業もある。こうした点は、写真とは違いますね。しかし、私にとっては、どちらもフィクションであるという点が共通しています。現実を写しながらも、そこに感情や情動という力が働いて、変容したものが写真です。物語を語るときには、主題を拾い上げて、私が感じたことを込めて語ります。そうすることで、ある意味、別のものになる。
――亡くなられたご主人、ロベール デルピール氏についてすこしうかがってもいいでしょうか? もしそういうタイミングでなければ、この質問はなしにしますが。
ええ、そのタイミングです。まさに。
彼は本当に特別ですばらしい人だった。みなさん、そうおっしゃってくださいます。偉大なる編集者でした。そして、公明正大な人でした。常に仕事をしていて、写真集出版の第一人者として知られていました。亡くなったあとの今でも、もうじき出版される本があるくらい。
――何年一緒にいらっしゃいましたか?
46年間です。
――仕事の面で、彼から影響を受けましたか?
私は、最初に彼に会った頃に、写真を始めました。とにかく、私が作る作品に自信をもたせてくれたのが彼だったのです。これは大変なことです。
――そのおかげもあって、写真を続けることになった?
きっと、そうだったのだと思います。とにかく最初に自信をくれたのは彼です。
――支えは、必要なものですね。
もちろん。特に最初の頃はそうです。彼が私にしてくれたように。
――デルピール氏のドキュメンタリーを制作されたことがありましたね? 彼はあなたに撮られることに満足していましたか?
どうかわからないけれど、好きなようにさせてくれました。放っておいてくれた(笑)。とてもいい思い出です。
――現在、写真についてもっとも興味をもっていることは何ですか?
時によって違うのですが、現在でいうと、インダストリアル写真に興味があって、撮り始めました。今、特に気に入っているのは、港です。港といっても、レジャーで行くような港ではなくて、クレーンやコンテナ、工場が立ち並ぶような工業的な港。もちろん、船の行き来は目に入るけれど、現代的な港には人の姿がないのです。機械しかいない。だから、まるでノーマンズランドの象徴であるように思えます。人間はどこにもいなくて、もう出て行く船もない……といったような。だから、とてもミステリアス。
――カメラは何を使っていますか?
オリンパスの最新機種。いつも最新機種を使っています。写真も映画もそう。あとはポラロイド。それらを混ぜて使っています。
――本展の作品はどのような観点からセレクトされましたか?
まず、これまで日本で一度も展示したことのない作品を中心にしたいと思いました。そして、そのためには新作を撮りたい、という考えもわきました。これまで試みたことのない表現方法による作品をお見せしたいと思ったのです。
まさに追い風が吹いてきた、という気持ちですね。
2017年11月8日
パリ クロズリー・デ・リラにて