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CONCERT

シャネル・ピグマリオン・デイズ
室内楽シリーズ 11

2017.11.10 FRI - 11.12 SUN

INTRODUCTION

シャネルの創始者であるガブリエル シャネルは「ピグマリオンだった」といわれており、パブロ ピカソ、イーゴリ ストラヴィンスキー、ジャン コクトーらを支援しました。シャネル・ネクサス・ホールでは、芸術を愛し、支援したマドモアゼルの精神のもと、2005年から若手アーティストに演奏の機会を提供する音楽プログラム、「シャネル・ピグマリオン・デイズ」を開催しています。

ここまでの活動から、ピグマリオン・デイズでリサイタルの経験を重ねてきた若手音楽家たちの更なる成長のために、室内楽を学ぶことがとても重要であること、また、聴き手の皆様にも、室内楽が音楽の楽しみの幅を広げてくれるものであることを感じ、シャネル・ピグマリオン・デイズ 室内楽シリーズを年2回開催しています。6月に続き、秋のシリーズでは、シャネル・ピグマリオン・デイズの参加アーティストをはじめ、今まさに伸び盛の若い演奏家たちが集い、互いを高め合いながら室内楽の楽曲に取り組んでまいります。魅力あふれる演奏の数々を、どうぞお楽しみください。

SCHEDULE

View Program ▼

11NOV

12 SUN

16:30 開場 / 17:00 開演

R.シュトラウス: 歌劇《カプリッチオ》作品85より序奏
城戸 かれん (ヴァイオリン)
伊東 真奈 (ヴァイオリン)
田原 綾子 (ヴィオラ)
大山 平一郎 (ヴィオラ)
加藤 文枝 (チェロ)
笹沼 樹 (チェロ)

ブルックナー: 弦楽五重奏曲 ヘ長調
石上 真由子 (ヴァイオリン)
伊東 真奈 (ヴァイオリン)
田原 綾子 (ヴィオラ)
大山 平一郎 (ヴィオラ)
笹沼 樹 (チェロ)

11 SAT

16:30 開場 / 17:00 開演

ベートーヴェン: 弦楽三重奏曲 第2番 ト長調 作品9-1
石上 真由子 (ヴァイオリン)
田原 綾子 (ヴィオラ)
加藤 文枝 (チェロ)

フランク: ピアノ五重奏曲 ヘ短調
酒井 有彩 (ピアノ)
土岐 祐奈 (ヴァイオリン)
城戸 かれん (ヴァイオリン)
大山 平一郎 (ヴィオラ)
笹沼 樹 (チェロ)

10 FRI

18:00 開場 / 18:30 開演

シェーンベルク: 弦楽四重奏曲 ニ長調
伊東 真奈 (ヴァイオリン)
土岐 祐奈 (ヴァイオリン)
大山 平一郎 (ヴィオラ)
笹沼 樹 (チェロ)

フォーレ: ピアノ四重奏曲 第2番 ト短調 作品45
永野 光太郎 (ピアノ)
石上 真由子 (ヴァイオリン)
大山 平一郎 (ヴィオラ)
加藤 文枝 (チェロ)

※アーティスト及び公演日、プログラムは変更となる可能性があります。予めご了承ください。

REPORT


シャネル・ネクサス・ホールでは、年に2回「シャネル・ピグマリオン・デイズ 室内楽シリーズ」として、室内楽コンサートを開催しています。6月に続き、11月のシリーズでは、ピグマリオン・デイズ参加アーティストを中心とした、いま伸び盛りの若手日本人演奏家たちが11月10日から3日間にわたり、室内楽の知られざる名曲に挑みました。アーティスティック・ディレクター大山平一郎氏のもと、真剣にリハーサルに取り組む演奏家5名に「シャネルで室内楽を演奏すること」の特徴やコンサートにかける抱負をたずねました。

酒井 有彩 (ピアノ)
永野 光太郎 (ピアノ)
加藤 文枝 (チェロ)
笹沼 樹 (チェロ)
土岐 祐奈 (ヴァイオリン)

――今回の室内楽シリーズではピアノが登場する曲が2曲あり、フランクの『ピアノ五重奏曲』では酒井有彩さんがピアノを演奏されますね。

酒井有彩(ピアノ) :現在、一般的にコンサートで演奏されているフランクの曲はほとんど彼の後期の作品です。彼は室内楽分野から長く遠ざかっていて、再びこのジャンルの作曲に没頭し始めたのが50代でした。この『ピアノ五重奏曲』は彼にとって30年以上ぶりの室内楽作品で、一言で表せない世界観があります。冒頭からほとばしるような情熱があり、憧れもあり、色々なものが複雑に絡みあっています。音数もすごいですが、弱音の世界をどう表現するかが一番重要だと考えています。たくさんのピアニッシモがちりばめられている作品です。

――フォーレの『ピアノ四重奏曲』はいかがですか?永野光太郎さんがピアノを弾かれます。

永野光太郎(ピアノ) :フォーレとフランクの今回の二つの曲は世界観が似ていると思います。二人ともオルガニストでしたし。オルガン奏者独特の謹厳な部分がありつつ、内面的な部分と交じり合っている印象です。フォーレの曲は調性が三度、三度の転調を繰り返すので、上に行って下に行って…と軸が不安定で、つかみどころのない魅力がありますね。

加藤文枝(チェロ) :永野さんは弦楽器に合ったとてもキラキラした音を出される方。タッチに透明感があって、美しい演奏をされますね。シャネルでは、室内楽シリーズ本番前に一週間のリハーサルがあり、これがとても濃厚で、共演の方から触発されることも多いんです。

――皆さんとってシャネルの室内楽シリーズの特徴は、どういうところにありますか?

笹沼樹(チェロ) :プログラミングが特徴的です。非常に攻めている内容ですね。室内楽の演奏会では、このプログラムは普通なかなか思いつかないと思います。曲数が多いということもありますが、何より内容が凄いのです。室内楽の王道と呼ばれる作品をメインにして、その中に珍しい曲を混ぜ込むプログラムではなく、全部の曲について全身全霊で取り組まなければならないほどの、なかなか普段のコンサートでは演奏する機会の少ない作品が軸になっています。ブルックナーの『弦楽五重奏曲』も、彼が書いたシンフォニーの巨大な世界観を念頭に置きながら、室内楽作品に取り組むという特別な感慨があります。いい意味で、すべてが情熱的な曲なので、それに気持ちを入れていくのが大変です。

加藤:毎回珍しい作品を演奏できるので、演奏家の仲間たちから羨ましがられることも多いです。6月の室内楽シリーズで演奏したマーラーのピアノ四重奏曲は、コンサートで演奏されることがほとんどない曲だったと思います。ちょっと合わせてみるだけならどこでもできますが、やっぱり本番で弾いてみたいなぁと思うことが多いです。今回のリヒャルト シュトラウスの『カプリッチオ序曲』も、六重奏で弾くことが出来てとても幸運だと思っています。オーケストラに呼ばれてチェリストとして弾く場合、100人以上もの人たちと一緒に演奏するので、リヒャルト シュトラウスのセンスを6人で味わえるというのは、特別なことなんです。

土岐:弦楽四重奏や弦楽五重奏というジャンルを短い日数で作り上げていくのは難しいことで、シャネルの室内楽シリーズのリハーサルでは単純な合わせをやるというより、お互いを真剣にすり寄せていく準備をします。室内楽にも、頻繁に演奏される有名な作品がありますが、シャネルの室内楽シリーズでは、他では演奏される機会の少ない作品がたくさん選ばれているのが特徴ですね。「こんな曲もあるんだよ」ということをお客様にも知っていただけるユニークなプログラミングで、シャネルならではの内容だと思います。

――プログラミングが珍しい分だけ、練習にはたくさん時間をかけているのでしょうか?

加藤:とても内容が濃いです。他の室内楽では限られた時間の中で合わせていくため、リハーサルでも最初からすり合わせることを目的として進めていくことが多いんです。本番できちんと揃えるためのリハーサル…というところがあるかもしれません。シャネルの室内楽シリーズは一人一人がしっかりと準備をしてきて、それぞれの作品への想いを抱いて、それをみんなで分け合う場なんですね。自分と違う意見があっても、それを聞いて学ぶことができるんです。

――なるほど。アーティスティック・ディレクターの大山平一郎先生(ヴィオラ)が、若い皆さんと共演されるのも、他ではないことだと思います。

笹沼:今まで色々な経験を積んでこられた大山先生とご一緒させていただくことで、もちろん僕らはたくさんのことを吸収できるわけですが、リハーサルでは先生も対等な立場で練習を進めてくださいます。演奏に関して「どっちがいいかな」と意見を聞いてくださったり。そういう面でもとてもありがたいと感じています。

土岐:私は昨年11月の室内楽シリーズで初めて大山先生とご一緒させていただいたのですが、今まで同級生や年の近い方との共演が多かったので、ベテランの演奏家との共演はとても新鮮でした。最初のリハーサルで衝撃的だったのは、言葉でああやろう、こうやろうというより、先生の弾く音が私たちを導いてくれるものがあって、最初の通し(最初から最後まで本番のように演奏すること)でそれがはっきりと感じられたことです。先生もこちらの意見を聞いてくださるので、共演は緊張もしますけど、本番ではアンサンブルを楽しんでいます。

加藤:自分と同世代の人たちとの共演では、例えば、何かがしっくりこなくても、何が原因なのかわからないまま、もやもやを抱えて進んで行くこともあります。大山先生が入ってくださると、先生が地図のような役割を果たしてくださり「あぁ、そういうことだったのか!」と気づくことができるんです。それも「ああだ、こうだ」と言葉で細かく説明してくださるのではなく、弾く音で皆を引き寄せて理解させてくださいます。シャネルでのこの経験が、同世代の仲間と再び共演するときに役立つことが何度もありました。一人経験が豊かな人がいると、皆が発展することが出来ますからね。

――シャネル・ネクサス・ホールという空間にはどんな特徴があるでしょうか?

永野:ホールの洗練されたムードが音楽にも反映されるような気がします。音がすっと響いていくイメージです。

酒井:お客様が音に集中してくださる感じがとても伝わってきますよね。他のコンサートホールにはない独特の雰囲気で、ピリッとしているわけではないけど、ふわっとしているものでもない。緊張感もありますが、お客様があたたかかく聴いてくださる感じが、演奏者にも伝わってくる空間です。演奏する側としては心が引き締まる感覚がありますね。

取材・文: 小田島 久恵(音楽ライター)

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