FEATURED
2022.4.28 THU
Pygmalion
シャネル・ピグマリオン・デイズ 2022
山縣 美季 インタビュー
芸術を愛し、多くの芸術家たちを支援したガブリエル シャネルの精神にもとづき、選ばれた若手音楽家たちに、一年を通じてそれぞれ5回のリサイタルの機会を提供するプログラム、シャネル・ピグマリオン・デイズ。今回は、2月26日(土)に第1回目の公演を終えた2022年参加アーティスト 山縣美季さん(ピアノ)のインタビューをお届けいたします。
山縣 美季(ピアノ) Miki Yamagata
シャネル・ピグマリオン・デイズ2022 参加アーティスト
2002年鎌倉市生まれ。第89回日本音楽コンクールピアノ部門第1位及び野村賞、 井口賞、河合賞、三宅賞、アルゲリッチ芸術振興財団賞受賞。第44回ピティナ・ピアノコンペティション特級ファイナル入選。かながわ音楽コンクールでユースピアノ部門とピアノ部門の両方でコンクール史上初の同年二冠(どちらも最優秀賞)を果たす。第2回ノアンコンクール第1位、ノアン賞受賞。フランス・ノアンにてノアンフェスティバルショパンに出演。これまでにシレジア・フィルハーモニー管弦楽団、プリマヴィスタ弦楽四重奏団、神奈川フィルハーモニー管弦楽団、東京交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団と共演。NHK Eテレ「クラシック音楽館」、NHK-FM「リサイタル・パッシオ」に出演。東誠三、日比谷友妃子の両氏に師事。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校を経て、東京藝術大学宗次德二特待奨学生として東京藝術大学3年に在学中。
2002年生まれ。20歳になったばかりのピアニスト山縣美季さんは、現在東京藝術大学に通う現役の音大生です。第89回日本音楽コンクール1位、第44回ピティナ・ピアノコンペティション特級ファイナル入選ほか、10代からめざましい頭角を表してきました。
シャネル・ピグマリオン・デイズの2月のリサイタルでは、モーツァルト、フォーレ、ショパン、シューベルトを演奏し、情感に溢れたピアニズムと知的なトークでお客様を魅了しました。緻密に楽譜を読み込んだスケールの大きな音楽作りは、未知数の可能性を秘めていて、聴衆に大きなインパクトを与えます。優しく落ち着いた雰囲気の山縣さんに、シューベルトを軸にした全5回のシリーズについて、お話をお聞きしました。
-第1回目のリサイタル(2月26日)では、モーツァルトの『ピアノ・ソナタ第17(16)番』とフォーレ『ノクターン第7番』、ショパン『バラード第2番』、シューベルト『ピアノ・ソナタ第13番』を演奏されました。
「1回目は、今まで弾いてきたものを皆様に聴いてほしいと思い、ずっと取り組んできたショパンは欠かせないと思っていました。フォーレも自分の中では大切な作曲家でしたし、「私の音楽はこういう感じ」という自己紹介のような感覚で選びました」
-すべての回にシューベルトの曲を入れると決めた理由を教えてください。
「務川(慧悟)さんが、ラヴェルのピアノ作品全曲演奏をテーマにしていたのが素敵だなと思っていたので、私も何か大きなテーマで取り組めたらいいなと考えていました。ショパンにしようか、フォーレにしようか、ずっと悩んでいて、シューベルトにしたら結構大変だなと思っていたのですが、「自分がやりたいことをやるのがいいですよ」とシャネルの方がアドバイスしてくださったこともあり、シューベルトに決めました。ここ1年くらいで、急に好きになったんです。今一番興味がある作曲家ですね。以前はシューベルトの穏やかさしか知らなかったので、それほど魅かれることはなかったのですが、先日イ長調のソナタ(第13番)を弾いたときに、穏やかさの裏側にある複雑さまで見えてきて、「天国的」と言われる音楽は、裏に色々な葛藤があるからこそ素晴らしいと感じました」
-5月28日の第2回目のリサイタルでは、シューベルトの「幻想曲」をとり上げられます。色々な作曲家の幻想曲が選曲されていますが、ブルックナーのピアノ曲はあまり演奏される機会がない曲ですね。
「『幻想プログラム』って、結構皆さん組まれますよね。バッハとモーツァルトとショパンと、ちょっと変わったものも組み合わせたいなと思ったとき、ブルックナーも幻想曲を書いていることを知り、すぐに惹かれました。演奏時間はそんなに長くありませんし、「こんな曲があるんだ」と新鮮な気持ちで練習しています。シューベルトと調が同じなんです。G-Dur(ト長調)が二人にとっての『幻想』のイメージだったんだなと思うと、興味深いですね」
-ブルックナーはもともとお好きでしたか?
「はい。聴く音楽はどうしてもピアノ曲が中心になってしまうのですが、ブルックナーは特別で『ミサ曲第3番』には大きな思い入れがあります。コンクールに向けて新曲を準備していたとき、どういうイメージで演奏しようかと画像検索したり、CDのジャケットを見たりしていたとき、チェリビダッケ指揮の石庭のジャケットのブルックナーの『ミサ曲第3番』のCDを見つけて、それを聴いてイメージを吸収したんです。その後、演奏を聴いてくださった先生が「山縣のイメージに近いものがある」とそのCDを偶然送ってくださったりして、それ以来ブルックナーには運命的なものを感じているんです」
-それは興味深いです。シューベルトもブルックナーもウィーンという共通点がありますね。幻想曲は調性も同じ。
「ブルックナーの『幻想曲』は、お客様の前で今回初めて弾く機会となるので楽しみです。シューベルトは、ピグマリオン・デイズ3回目以降は歌曲の編曲や即興曲を構想していて、5回目の最終回には後期のソナタを弾こうと、シューベルトをテーマにしたときから決めていました。第1回目に小さなイ長調のソナタ(第13番)を演奏したので、最終回は大きなイ長調のソナタ(第20番)を演奏しようと思っています」
-大曲ですね。先ほどの石庭のジャケットのチェリビダッケのCDのお話のように、山縣さんは絵や映像や、文学や詩などの活字情報からも大きなインスピレーションを受けるタイプではないでしょうか?
「本などは、必要な知識を得るために頑張って読むようにしているのですが、そんなに多くはないです。一番好きなのは楽譜を読んでいる時間です。ばりばり練習するというより、楽譜を見ながら「あ、ここはこうなっているんだ」とか「こことここで再現部が…」とか、「すごい、この発想どこから?」と発見したりとか、そんな瞬間が楽しいです」
-楽譜からイメージが広がっていくのですね。
「どういうアプローチでやっていくとか、決めているわけではありませんが、やっぱり楽譜に忠実であるべきだと思いますし、楽譜を読まなければ発見できないこと、汲み取れないことがいっぱいあると思います。まずは楽譜と向き合って…それが楽しいからではありますが、その工程は大切にしていますね。偏り過ぎるとお堅い印象になってしまうし、もっと自由でもいいんじゃないかと言われることもあります。そういうときはいったん譜面を置いてみて、その作曲家の他の作品を聴いてみたりしますね」
-今年2月の浜離宮朝日ホールでのデビュー・リサイタルでも、(当時)19歳とは思えないスケール感でした。まったく緊張していないように見えたのですが、実際はいかがでしたか?
「わりと、覚悟を決めるほうです。直前まで譜面を見るタイプではないですし、瞑想もそんなにしません。自然体のときにいい音楽が出来ると思っているので、舞台裏でストレスを感じたり、無理にスイッチを入れることもなく…何かを被った状態でいたくないんですね」
-なるほど。シャネルでの第1回目のリサイタルも、とても自然体でした。
「感情が安定しているというより、どちらかというと感情を表に出すのが苦手なのかも知れません。悩む時期もありますが、お客様に聴いていただくときは『自分はこう思う』ということを、自信をもって聴いていただきたいのです。精神的な浮き沈みがないわけではありませんが、人前に出るときは安定した状態でいなければと思います」
2月26日開催 第1回ピグマリオン・デイズ演奏終了後
-精神力が強いのですね。今は渡航が難しい状態ですが、今後は海外でも学ばれるチャンスがあるのではないかと思います。
「過去に海外に一人で行くという経験は何度かありますが、実際にどの国に留学するのかはまだ決めかねています。ずっとフランスがいいなと思っていましたが、日本人がいないところへ行ったほうがいいよとアドバイスされることもあります。大学一年の秋に日本音楽コンクールに出るまでは、コンクールに出てもなかなか目が出ず、そんなに音楽好きではなかったのです…。普通の勉強も好きでしたし、勉強しただけ結果が出る学業に比べて、いくら練習しても必ず結果が出るわけではない音楽は難しいとも思っていました。でも、一般教科の楽しさがかすむほど「音楽が楽しい!」と思う気持ちが芽生えて以来、自分は変わったなと思います」
-今の山縣さんの「旬の作曲家」であるシューベルトを聴けるのが楽しみです。ショパンやフォーレのシリーズも将来聴いてみたいです。
「ショパンは『ピアノ協奏曲第2番』が特別に好きな曲で、あの第2楽章がすべての音楽の中で、とても好きです。昔は『幻想ポロネーズ』や『舟歌』などショパンが後期に作曲した作品が好きでしたが、初期作品の素晴らしさにも気づいてしまったので、今では全部が好きです。いつかショパンのシリーズも弾いてみたいですね」
取材・文:小田島 久恵(音楽ライター)
INFORMATION
シャネル・ピグマリオン・デイズ
5月公演 観覧ご応募受付中
17:00-18:00
山縣美季(ピアノ)
*プログラム*
ブルックナー:幻想曲 ト長調 WAB.118
ショパン:ポロネーズ 第7番 変イ長調 作品61 「幻想」
シューベルト :ピアノ・ソナタ 第18番 ト長調 作品78 D894「幻想」
ご応募はこちらから(締切:5/8)