シャネル・ネクサス・ホールでは、2019年度展覧会プログラムの最後を飾る企画展として、フランス人フォトグラファー ヴァサンタ ヨガナンタンの日本初の個展「A Myth of Two Souls」を開催いたします。2015年にマグナムフォトアワードを受賞し、2017年にはその年の期待される新進写真家としてICP (国際写真センター) インフィニティアワードに輝いた注目のフォトグラファーです。彼の作品は、ドキュメンタリーとフィクションの間にある世界を探求しています。
「A Myth of Two Souls」は、紀元前300年頃に詩人ヴァールミーキが編纂した『ラーマーヤナ』に着想を得て制作されました。『ラーマーヤナ』はヒンドゥー教の聖典の一つであり、『マハーバーラタ』と並ぶインド二大叙事詩。何世紀にも渡って幾度となく書き換えられ、再解釈され、現在もインド、東南アジアで書物だけでなく舞台、コミック、TVドラマなどさまざまなメディアを通して広く親しまれています。
物語の登場人物は、ラーマーヤナ王国から14年間追放されたアヨーディヤーの王子ラーマとその妃シーター。国を追われて暮らしているうちに、シーターはスリランカの王ラーヴァーナにさらわれてしまいます。これを機に、二つの王国は戦争に突入することになります。『ラーマーヤナ』は古典的な叙事詩—恋物語、誘拐、戦争—であると同時に哲学的な物語でもあります。
ヨガナンタンは、2013年からインドを北から南へ『ラーマーヤナ』の物語の道筋を辿り、現地の人々と生活を共にし、『ラーマーヤナ』からインスピレーションを受けて撮影を行いました。ヨガナンタンの一連の作品は時空の旅という概念を核として、この古典作品を現代的に読み直すことを提案しています。
「A Myth of Two Souls」のストーリーは、風景写真と『ラーマーヤナ』の役柄を演じる人物の写真によって展開されます。前者は、『ラーマーヤナ』の中で描写された、現代インド人にとっては伝説的な風景。後者は地元の人々に自分の心に刻まれたシーンを演じてもらっています。4×5インチ大判カメラでモノクロ撮影した作品には、伝統的な手彩色を学んだインド人画家が着色を施しました。現実とフィクションの境界線が曖昧になった、叙事詩的な旅へと見る者を誘います。
「A Myth of Two Souls」プロジェクトは現在進行中で、2016年から2020年にかけて、ラーマーヤナの全7巻に対応する7冊のフォトブック (「Early Times」、「The Promise」、「Exile」、「Dandaka」、「Howling Winds」、「Afterlife」、「Amma」) として出版されます。