立木義浩は1958年に写真家として活動を開始して以来、広告、ファッション、ポートレートなどの分野で活躍するかたわら、ライフワークとして写真作品を発表してきました。
立木が写真作家として注目されたきっかけは、1965年に雑誌「カメラ毎日」誌上で56ページにわたって掲載された「舌出し天使」です。1人の女性を主人公に自在なカメラワークで都市のファンタジーを表現したこの作品は、同時代の写真家たちに大きな影響を与えました。その後も、女優・加賀まりこをヒロインに“ヌーベルバーグ”の映画群を連想させる世界を展開した『私生活』(1971)、戦後の日本に大きな影響を与え続けているアメリカを旅し、その眼で変わりゆく大国の素顔を捉えた『マイ・アメリカ』(1980)、家族の絆が感じられる“瞬間”を写し留めた『家族の肖像』(1990)、スナップショットの手法で日常のなかのドラマをあぶり出した『風の写心気』(2006)等の写真集を出版するなど、発表してきた作品は質、量ともに、日本を代表する写真家と呼ぶにふさわしいものといえるでしょう。『Yesterdays 黒と白の狂詩曲 』は立木義浩の最新作です。日常のなかでふと眼にした光景にレンズを向けるスナップショットを軸に、4人の女性とのフォトセッションを交え、構成されています。
デビュー以来、一貫して取り組んでいたモノクロ写真は私たちの眼に映る世界を黒と白に変換することで、ふだんは意識していない光と影を強く意識させます。立木は光によってつくりだされた黒と白の世界に生々しいリアリティと、現実の切れ目から不意に現れる幻想的な世界を逃さず撮影しています。その軽快なフットワークと、意表を突くカメラワーク、なんでも撮ってやろうという貪欲な姿勢は、1枚の写真を追い求める写真家像そのものです。
立木はうつろいゆく世界のなかに奇跡的な“瞬間”を求め続ける写真家、もっとも写真家らしい写真家の一人だといえるでしょう。眼前の瞬間に挑み続ける立木義浩の写真作品をぜひご覧ください。