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2017.5.29 MON

INTERVIEW

シャネル・ピグマリオン・デイズ 2017 参加アーティスト
小野田 有紗(ピアノ)インタビュー

最初の一音で聴衆を釘付けにする気迫と、音楽の内側に潜むパワーを鮮やかに引き出す握力の強さには、他のピアニストにはない特別な個性を感じさせます。21歳の小野田有紗さんは、一度彼女の音楽に触れたら離れられなくなってしまうような特別な演奏家です。10代でジュリアード音楽院に入学し、17歳で高校を飛び級で卒業したのち、現在は英国王立音楽院に在学中。素顔は無邪気で、知的好奇心の塊のような女性です。

―――2歳でピアノを始められたそうですが、子供時代はどんな練習をしていたのですか?
ピアノをやりたいと言ったのは私自身だった、と母は言っているのですが、なぜなのかよく覚えていないんです。練習量は他の子よりずっと少なかったと思います。学校も進学校で、7時限目が終わるのは夕方の5時くらいでしたから。土日、何もないときに練習をしている…というか、研究しながら遊んでいるという感じでした。

―――研究しながら遊んでいた…。
練習ではなくて、遊びという感じでした。幼稚園の時から、演奏する作品に歌をつけて歌っていたんですよ。歌詞や絵をつけてイメージを膨らませていました。すごく楽しかった!(笑)そういうやり方がメインだったので、学問的に音楽を始めたのは本当に、高校に入ってからですね。

―――すごくユニーク。6歳からはヴァイオリンも始められたのですね。
ヴァイオリンも楽しそうだったので始めました。あまり練習はしなかったのですが、オケと一緒に合奏したり、ただただ楽しかったです。そのうち、ピアノのコンクールが重なるようになってきて、ヴァイオリンに触れることが少なくなってしまいましたが、今でも時々友だちの楽器を借りて室内楽を演奏したりすることがあります。今になって実感するようになりましたが、ヴァイオリンで演奏していたことや、ヴァイオリンでも室内楽やアンサンブルをやっていた経験がピアノに活かされているなぁ、と思います。

―――コンクールといえば、2015年のショパン国際ピアノコンクールでは、映像配信された小野田さんの演奏が大きな話題になりました。とても立派でしたね。
あのコンクールでは、直前に体調を崩していたこともあって、0.1割も自分を出すことができなかったと思います。自分が自分に色々と邪魔をしていたのかも知れません。ショパンってすごく難しくて、ずっと詰めて練習していけばそれに比例していい演奏が出来るわけではなく、しばらく放っておくと、放っておいた時間に熟成されたものが自然に出てきたりして…タイミングが本当に難しい。ショパンコンクールの場合、予備予選の1週間くらい前にピークが来ていたんですよ。

―――そのあたりは悩ましいところですよね。シャネル・ネクサス・ホール(4/15)でアンコールに弾いたショパンのワルツは、とても小野田さんらしくてダークで濃厚な演奏でした。ピアノは調律にもものすごくこだわりがあるそうですね。
お客様には出来るだけいいものを聴いていただきたいし、自分もその方が気持ちがいいから…調律は、自分のハンマーを持っているんですよ。調律器具も一式プレゼントしていただいたことがあって。ロンドンに調律をしてくださる方がいるんですが、その方は毎回ドイツから来てくださり、いつも世界中を飛び回っていらっしゃるので、あまりに忙しいときは…。

―――小野田さんが自分で調律しちゃう!(笑) ところで、先ほど体調を崩していた時期があったと仰っていましたが、留学中に?
ジュリアードで勉強していたときです。アメリカで一年目が終わるくらいの頃に病気になりました。肝臓と脾臓が腫れて…1か月くらい学校へも行けないしピアノも弾けないし、それは大変だったんですけど、それがなければ今の自分はないと思っています。高校を飛び級したばかりで、不可能と思えることをすべてやりたいと思っていたんです。学校の課題を夜中の2~3時までやって、朝の8時から学校で、夜の11時まで練習する…色んなことがやりたかったので、爆発してしまったんですね。

―――勉強のしすぎと音楽のしすぎで身体を壊してしまった…NYのジュリアードからロンドンの英国王立音楽院へ行って、学ぶ環境も変わりましたね。
ジュリアードをやめるとき、最後のレッスンで言われたことがすごく心に残っているんです。ピアニストに必要なのは、指揮者になることだと。指揮者をよく見なさいと。それがそのままピアノに生きてくるからって…今ロンドンで色々なコンサートを聴いているんですが、その通りだったと思います。プロムスを5夜連続で聴いて、サイモン ラトルが1.5メートルくらいのところにいるのを見て、すごく勉強になりました。ラトルは最高の指揮者!ロンドンでは、私も指揮を勉強しているんです。

―――指揮の勉強!
ベートーヴェンの交響曲1番と2番や、ドヴォルザークの6番、モーツァルトの35番と36番もやりましたし、今度試験で振るのはブラームスの2番です。

―――実際にオーケストラを指揮するんですか?
もちろんそうです。

―――小野田さんが指揮をするシンフォニーを聴いてみたいです…ロンドンでも学ぶことがたくさんあるのですね。
室内楽も結構やりますし、音楽理論の論文も書きます。前学期は調性音楽の小論文を書いたので、今度は無調音楽の論文にしたんですけど、結局興味が持てなかったのでまだ全然書けていないんです…。それ以外は、学校が終わるとロイヤル・オペラ・ハウスに通っています。直前にメールで連絡が入ったりすると、10ポンドで観られるんですよ。どの席も。だからメールが来たらガッツポーズ(笑)。バレエではロイヤル・バレエのプリンシパルのマシュー ゴールディングがお気に入りです。オペラは先日ショスタコーヴィチの「ノーズ(鼻)」がすごく面白かった!でも、裏側がシリアスでこわいんです。

―――音大生の方は、自分の練習に没頭してあまりコンサートに行かない人も多いから、色々なものを観るのはすごくいいことですね。他にどんなものが好きですか?
夜とか宇宙が好きで、それをイメージしたプログラミングを組むこともあります。ベートーヴェン、リスト、スクリャービンを夜のイメージで繋げたり…ピアニストになっていなければ、宇宙管制官になりたかったんです。宇宙飛行士ではなく、陸にいるほうがいい(笑)。NASAにも行ったし、宇宙の本もたくさん読んで、中学のときにはブラックホールについて論文を書きました。見えるものより、見えないものに興味があるんです。スーパー・ストリングス・セオリーってご存知ですか? 原子の一番小さいところに振動している部分があって、その振動がすべてのモノを作り出している。それを簡単に解釈したら、この世の中のモノは全部音楽で出来ているんです。

―――それはすごい…!
マルチバース(多元宇宙論)、というこの宇宙のほかにも宇宙が何個もある、という説も好きです。いっぱい宇宙があって、その寄せ集めがこの宇宙なんですね。演奏ではイメージを作ることが一番大事なプロセスなので、宇宙からもインスピレーションを受けています。

―――一番好きな作曲家を教えてください。
たくさんいますが、自分にとって自然に感じられるのはラヴェルです。ラヴェルの作品はオーケストラをピアノで表しているようなところもあるので、指揮の勉強がすごく役に立つのですね。ドビュッシーも同じ理由で、自然体で演奏できる作曲家なんです。


2017年4月
取材・文: 小田島 久恵(音楽ライター)

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