BACK

FEATURED

2019.10.1 TUE

Pygmalion 15th

シャネル・ピグマリオン・デイズ 2015 篠原 悠那
シャネル・ピグマリオン・デイズ 2017 笹沼
インタビュー

今年で15年目を迎えたシャネル・ピグマリオン・デイズ。昨年までに73名の若手音楽家たちがこのプログラムで演奏の経験を積み、アーティストとしての一歩を踏み出してきました。15年という節目を迎え、これまでに参加してくださったアーティストたちの「いま」をご紹介するインタビューシリーズを、2月よりスタートしました。

第7回目は、ソロ活動のみならず、難関で知られるミュンヘン国際音楽コンクール弦楽四重奏部門第3位に入賞するなど、カルテット・アマービレとしてもご活躍中の2015年参加アーティスト篠原悠那さん(ヴァイオリン)と2017年参加アーティスト笹沼樹さん(チェロ)のお話をお届けします。

© T. Tairadate

 


 

 

篠原 悠那(ヴァイオリン) Yuna Shinohara
シャネル・ピグマリオン・デイズ2015 参加アーティスト

第80回日本音楽コンクール第2位、並びに岩谷賞(聴衆賞)受賞。カルテットアマービレのメンバーとして第65回ARD ミュンヘン国際音楽コンクール弦楽四重奏部門 第3位、特別賞(コンクール委嘱作品の最優秀解釈賞)を受賞。テレビ朝日「題名のない音楽会」、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」出演。フジテレビ系アニメ「四月は君の嘘」ヒロイン役モデルアーティスト。シャネル・ピグマリオン・デイズ アーティスト2015。2016年CD「Estreno(エストレーノ)」をEPIC SONYよりリリースし、トッパンホールでデビューリサイタルを行う。桐朋女子高等学校音楽科を首席で卒業、桐朋学園大学ソリスト・ディプロマ・コース(特待生)修了。スイス・国際メニューイン音楽アカデミーを修了しディプロマ取得。現在、桐朋学園大学大学院修士課程に在籍。山下金彌、辰巳明子、マキシム ヴェンゲーロフ各氏に師事。室内楽を藤井一興、徳永二男、磯村和英各氏他に師事。ヤマハ音楽支援制度、明治安田クオリティオブライフ文化財団、ロームミュージックファンデーション奨学生。使用楽器は1832年製G.F.プレッセンダ ex “カール・フレッシュ”(宗次コレクション)。

 

笹沼 樹(チェロ) Tatsuki Sasanuma
シャネル・ピグマリオン・デイズ2017 参加アーティスト

1994年生まれ、東京都出身。7歳でチェロと出会い、9歳で本格的に始める。第65回全日本学生音楽コンクールチェロ部門高校の部第1位及び日本放送協会賞受賞。ザルツブルク=モーツァルト国際室内楽コンクール2013第1位。第12回東京音楽コンクール弦楽部門第2位。第83回日本音楽コンクールチェロ部門入選。ムジークアルプ、北九州国際音楽祭、十勝音楽祭、メルボルンチェロフェスティバル、ピアティゴルスキー国際チェロフェスティバル等に参加。2010年より霧島国際音楽祭に参加し、霧島国際音楽祭賞、堤剛音楽監督賞を受賞。これまでにマキシム ヴェンゲーロフ、イヴリー ギトリス、2CELLOS、新日本フィルハーモニー交響楽団等と共演。クァルテット・アマービレ、ラ・ルーチェ弦楽八重奏団のメンバー。クァルテット・アマービレとしては、2016年第65回ミュンヘン国際音楽コンクールの弦楽四重奏部門にて、第3位入賞及び特別賞を受賞。学習院大学文化活動賞受賞。2017年6月に開催した同大学でのリサイタルは、天皇皇后両陛下をお迎えしての天覧公演となった。桐朋学園大学音楽学部ソリスト・ディプロマ・コース修了。学習院大学文学部ドイツ語圏文化学科卒業。現在、桐朋学園大学音楽学部大学院2年在学中、チェロを堤剛氏に師事。室内楽を磯村和英、山崎伸子をはじめとする各氏に師事。桐朋学園大学音楽学部チェロアンサンブル・サイトウ奨学金、松尾音楽助成、ヤマハ音楽振興会奨学金、(公財)ロームミュージックファンデーション奨学生。使用楽器は1771年製C.F.Landolfi(宗次コレクション)。NHK交響楽団アカデミー生。Music Dialogueアーティスト。デビューアルバム「親愛の言葉(日本コロムビア)」はレコード芸術特選盤を獲得するなど、話題を呼んでいる。

 

カルテット・アマービレ Quartet Amabile

2016年9月難関で知られる第65回ARDミュンヘン国際音楽コンクール弦楽四重奏部門第3位に入賞、あわせて特別賞(コンクール委嘱作品の最優秀解釈賞)を受賞。15年桐朋学園大学在籍中のメンバー(篠原悠那、北田千尋、中 恵菜、笹沼 樹)により結成される。現在、磯村和英、山崎伸子に師事。16年第10回横浜国際音楽コンクール第1位及び全部門グランプリ受賞。第12回ルーマニア国際音楽コンクール第1位。第12回ミュージックアカデミーinみやざき講師特別賞、第26回リゾナーレ室内楽セミナー奨励賞、第37回霧島国際音楽祭賞、堤 剛音楽監督賞を受賞。松尾学術振興財団より第26~28回松尾音楽助成・奨励を受ける。プロジェクトQ第13章でカルミナ四重奏団、今井信子らのマスタークラスを受講。学内成績優秀者による桐朋学園室内楽演奏会に出演。17年4月NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」に出演。同年5月には、第19回別府アルゲリッチ音楽祭にて、マルタ・アルゲリッチと共演し、シューマンのピアノ五重奏曲を披露した。

シャネル・ピグマリオン・デイズ2015年参加アーティストの篠原悠那さん(ヴァイオリン)と2017年参加の笹沼樹さん(チェロ)は、現在カルテット・アマービレのメンバーとして精力的に活動を続けています。

©T. Tairadate

桐朋学園大学在学中に結成されたカルテット・アマービレ(ヴァイオリン:篠原悠那、北田千尋 ヴィオラ:中恵菜 チェロ:笹沼樹)は、2016年に世界的な室内楽の登竜門であるミュンヘン国際音楽コンクール弦楽四重奏部門で第3位(併せて特別賞)を受賞。ベテランのグループが多く参加するこのコンクールで20代前半の日本の若手奏者たちが上位入賞を果たしたことは、クラシック音楽の世界に大きな驚きをもたらしました。大学の先輩後輩であり、ともに世界の檜舞台で力を合わせて戦ったお二人に、いま演奏家として感じていること、未来への抱負などをお聞きしました。

©T. Tairadate

笹沼「篠原さんは高校の先輩で、霧島国際音楽祭の受講生として一緒に講義を受けるなど、よく同じ場にいることが多かったです。もともと桐朋は室内楽が盛んでしたし、チェロは3つくらい室内楽のグループを掛け持ちして活動するのが普通だったんですね。そのとき、一番お世話になっている東京クヮルテットの磯村和英先生が、『挑戦してみる価値がある』とミュンヘン国際音楽コンクールをすすめくださって。そのときに『カルテット(四重奏)をもっと真剣にやってみようか』という流れが生まれたんです」

カルテット・アマービレでの演奏

篠原「最初はカルテット・アマービレという名前ではなかったですね。フランス語で光を表す『リュミエール』というユニット名でした。ミュンヘンを受けるのに、この名前では弱いということになって…」

©T. Tairadate

笹沼「磯村先生がつけてくださったんです。定説ではないんですけど、カルテットの名称って圧倒的にAで始まるものが多いんです。アルバンベルクとかアルテミスとかアタッカとか。あとは地名とかですね。女性が3人いるユニットなので、『愛らしく』を意味するイタリア語をつけていただきました。磯村先生のアイデアです」

©T. Tairadate

ミュンヘンのコンクールまでの1年間は、レパートリーを増やし、課題曲をこなし、努力に努力を重ねてトータルで9曲を完成させ、芸術性を磨きあげていったといいます。

笹沼「カルテットとして10年以上の演奏歴をもっているような人たちが、最後に目指すようなコンクールなので『無茶は承知』という感じでしたが、かつてこのコンクールで優勝した磯村先生が真剣に指導してくださったこともあり、ひたむきについていきました」

©T. Tairadate

篠原「一次予選に現れたのは音源審査を通った9組。スタートラインでここまで絞ってくるのですね。百戦錬磨の団体ばかりが来ました。私たちが弾いたのは、ヤナーチェクとベートーヴェンで、周りがあまりにすごいために、かえって気が楽でした」

笹沼「本当に自分らしさを見せればいいんだなと。一次の会場はドイツ・バイエルン放送局のスタジオで、響きがあまり良くなくて。少しずつ他のグループの演奏を聴きながら『僕らは僕ららしく』という気持ちが高まっていきました。一次は通過発表がとても簡単で、もともと出場者名が書いてある上にシールが貼られるだけ。ものすごく年上の参加者に囲まれていた記憶があります」

二次予選に進出した頃から、コンクールの雰囲気も少しずつ変わっていったといいます。

篠原「ミュンヘン音楽大学のホールで、ディティユーの『夜はかくの如し』とメンデルスゾーンの弦楽四重奏曲第2番を弾きました。審査の流れとして、最初はベートーヴェンなどの技術を要する曲を見せて、次はカルテットらしい芸術的な要素をどれだけ聴かせるかが求められているように思えました」

©T. Tairadate

笹沼「二次では、僕らと同じメンデルスゾーンの曲を弾いたグループがいたんですよ。ものすごく洗練された印象があったんだけど『こうじゃない』という反骨的な気持ちが湧いてきて…僕たちが思っていた解釈とは違っていたんです。メンデルスゾーンの弦楽四重奏曲第2番では一楽章の冒頭と最終楽章の終わりに、声楽的なコラール(讃美歌)みたいな美しいメロディが出てくるんですが、彼らはその箇所をとても薄く繊細に弾いて、それ以外を力強く弾くことでコントラストをつけていました。綺麗だけど、そこに音楽的な意味は感じられなかったんです。聴衆の中にも、僕らが彼らのライバルになるということを感じていた人はいたんじゃないかな。彼らは一位を獲りましたけど(笑)」

©T. Tairadate

頭角を現したのは、課題曲であるコンクール委嘱作品の演奏で、カルテット・アマービレはこの曲で特別賞を受賞し注目を浴びました。

篠原「YouTubeで他のグループの演奏も聴いていましたが、私たちが一番よく準備をしていたと思います」

笹沼「楽譜に書いてあることを読み込んでいたのが、僕らの強みでした。その結果、作曲家の方が僕らの演奏をベストと評価してくださったんです。ファイナルはワーグナーが新作を発表するときに使っていた私設劇場で演奏しましたが、その頃になるとみんな体力的にも精神的にも消耗していました。アマービレ(愛らしい)女性の皆さん3人がとても心配で…何しろかなりハードなスケジュールでしたから。ファイナルに向けてハイテンションにはなっていたけれど、残っていた気力はかなり乏しかったです」

篠原「最終選考に残ったのは3組だけで、よほどのことがないと賞はもらえると思い、私としては少し気持ちが落ち着いていました。『絶対に賞を取って帰りたい』という気持ちがあったので…」

カルテット・アマービレでの演奏風景

2016年ミュンヘン国際音楽コンクール第3位入賞の栄誉に輝き、現在もそのときと同じメンバーでカルテット・アマービレは活動を続けています。篠原さんにとってはシャネル・ピグマリオン・デイズ参加の翌年、笹沼さんにとっては前年での挑戦でした。

©T. Tairadate

笹沼「室内楽はトリオ(三重奏)とカルテット(四重奏)では急に世界が変わる感覚がありました。ソリストが3人いて、それぞれが自由に演奏することで成立するトリオと異なり、4人になると合わせ方、音楽の作り方、バランス、すべてに倍以上の時間がかかることがあるのです。息の合わせ方もカルテットは独特です。あの時期にミュンヘンのコンクールに参加して、準備した曲をすべて弾き切った経験は、とても大きなものでした」

篠原「コンクールから時間が経てば経つほど、どういう無茶な状況だったかがわかってくるんです。審査員の方々も『レジェンド』な方々ばかりで、その人たちのCDをたくさん聴いて弦楽四重奏を勉強してきたので、授賞式では本物に囲まれている感動がありました」

 

©T. Tairadate

その後、篠原さんはスイスに留学し、メニューイン音楽院で世界的ヴァイオリニストであるマキシム ヴェンゲーロフ氏の指導を受け、帰国後は桐朋学園大学の大学院に戻り演奏活動を続けています。

篠原「ヴェンゲーロフさんの指導はとても厳しく、何度も止められて右手と左手の動かし方を注意されたり、身体全体の動かし方を直されたりしました。大変細かく指導してくださるのです。ヴェンゲーロフ先生が招かれている音楽祭に一緒に連れて行っていただいて、演奏したこともありました。今は9歳から師事している辰巳明子先生のもとで、再び研鑽を積んでいます。先生からは、学び尽くすということがないと思います」

笹沼さんは、室内楽以外にも精力的なソロ活動を展開し、昨年はデビューCD「親愛の言葉」(日本コロムビア)をリリース。NHK交響楽団の研修生として定期コンサートでも頻繁に演奏しています。

©T. Tairadate

笹沼「デビューCDをリリースしたきっかけは、2017年に参加させていただいた、シャネル・ピグマリオン・デイズの全6回の演奏会でした。レコード会社のディレクターの方が最初の演奏会から熱心に通ってくださって、『新しいレーベルのシリーズがスタートする』ということで声をかけていただき、レコーディングが実現しました。僕がやっている室内楽、ソロ、オーケストラの活動は関連し合っていると思います。カルテットのチェロ、ソロのチェロ、オーケストラのチェロ、それぞれ良さがあるんですけど、全部の魅力を引き出すためには、どれひとつも欠かすことはできない。三つの活動が、三本の柱にいい影響を与えてくれているんです。カルテットが養ってくれた音楽性や曲に対する姿勢はすべてに役立っていますし、素晴らしい指揮者が来た時のオーケストラのリハーサルは、作曲家に対する理解を一気に深めてくれます。自分が幸運だったのは、やはり、これまで人に恵まれてきたことだと思います。目標は、僕自身がどうということではなく、チェロという楽器を世の中に普及させていくことです。クラシック音楽界の中で目立つということではなく、クラシックの「ク」の字も知らない人がチェロを見て『これってギターですか?』と言わなくなるということ(笑)。それが僕の目論見なんです」

©T. Tairadate

カルテット・アマービレとしては、来年以降も多くのコンサートが予定されています。東京・白寿ホールではベテラン奏者を迎えブラームスの室内楽シリーズ、そして東京銀座の王子ホールでは、ベートーヴェンの弦楽四重奏全曲演奏会シリーズがスタートします。あふれ出るアーティスト・パワーの持ち主である篠原さんと笹沼さんは、クラシック音楽の伝統を引き継ぎながら、未来へ向かって大きく羽ばたいています。

 

取材・文:小田島 久恵(音楽ライター)

INFORMATION

2019年10月24日(木)19:00開演
会場: 紀尾井町サロンホール
OTTAVA Night Vol.23 篠原悠那 ヴァイオリン・リサイタル

2019年11月29日(金)19:30開演
会場:横浜みなとみらいホール 小ホール
毎日ゾリステン第198回公演
「カルテット・アマービレリサイタル~弦楽四重奏の調べ」


2020年1月29日(水)19:00開演
会場:白寿ホール
カルテット・アマービレ BRAHMS Plus 〈 I 〉


2021年2月21日(日)14:00開演
会場:王子ホール
~ベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏会 (全6回)~ 第1回

LINE OFFICIAL