FEATURED
2021.5.10 MON
Exhibition
Manga meets CHANEL
白井カイウ&出水ぽすか インタビュー
4月28日から6月6日まで、「MIROIRS – Manga meets CHANEL」展を開催しています。原作者・白井カイウ先生、作画家・出水ぽすか先生に2年以上にわたるプロジェクトの制作過程について、またコミック『miroirs』の3つの章のキャラクター誕生秘話についてお話を伺いました。
出水ぽすか:新型コロナウィルスの影響で予定していたフランスでの取材に行けなかったのですが、CHANELにご協力いただきながら、日本で出来る範囲の取材をさせていただきました。日本の店舗へお伺いして商品やブランドの歴史、ガブリエル本人の逸話について詳しくレクチャーを受けたり、フランス現地スタッフさんにビデオ電話を繋いでお話を聞かせていただいたり。
白井カイウ:あとは、ひたすらおすすめしていただいた関連書籍を読んだり、シャネルを題材にした映画(『ココ・アヴァン・シャネル』)を見たり、特別にバーチャルで彼女のアパルトマンを探索したり…。集英社のファッション誌編集部の方々にもご協力いただき取材しました。お店にあるNo5をすべて購入し、実際に使ってみて違いを比べたりもしましたね。
白井カイウ:まず始めに“漫画の形をした出水先生の画集”コンセプトでネームを組むことにしました。ストーリーに関しては、ガブリエル シャネルからインスピレーションを受けた側面を、各章のキャラクターに落とし込むという試みをしました。また、フランスに行けなかったこともあり、物語の舞台を日本にして現代日本でシャネルの精神や製品がどう息づいているのかを描くことにしました。
白井カイウ:「miroirs」は、フランス語で「鏡」の複数形です。ガブリエル シャネルの言葉であると伝わっているもののなかに、鏡についての言葉があって。鏡は自分の正体を正直に映してくれるものだ、自分がどんな人間なのか思い出させてくれる、というような趣旨の言葉です。そんな「鏡」というキーワードが念頭にあった上で、バーチャルや写真でガブリエルのアパルトマンを拝見した時に、螺旋階段や応接間など各部屋に綺麗な鏡がたくさんあったんです。それで、今回は各章にガブリエルから得たイメージの断片をキャラクターのモチーフとしてちりばめていくことにして。それはたくさんの鏡でガブリエル シャネルの様々な面を映している…という体裁にも見えるなと。「鏡がいっぱい」という意味で「ミロワール」にしました。
出水ぽすか:このイラストは、シャネルについて色々なお話を聞いていく中で感じた、世界を塗り替えたシャネルのイメージですね。No5の瓶の形って、シンプルでスタンダードな瓶の形なんですよね。そこから油彩などに使う画材・テレビン油の瓶のシンプルさとリンクされて…絵の具という発想になりました。イラスト内に東京を描けるのは、日本でこのコラボをやることの意味なのかなと考えています。
出水ぽすか:今回の漫画のコンセプトは、「ガブリエル シャネルの概念を持っている」ところを表現することなので、そういう意味では、あえて顔を見せないことで、ガブリエル本人かもしれないし、そうではないかもしれない、もしくはガブリエルをリスペクトしている今の自分たちなのかもしれない、という色々な可能性を込められたと思います。普段できないことをやらせてもらえたので、新しい挑戦でしたね。
白井カイウ:香水=”目に見えない”アクセサリーという考え方や機能に、とても魅力を感じます。口紅をつけるように、ネックレスやイヤリングをつけるように、タイや時計をつけるように、自らを輝かせる香りをまとう。更に、視覚を遮断したとして、その人を思い起こせる情報がある。たとえその人が目の前にいなくても、いなくなっても、その人を感じることができるものがあるという。
香水は、その人がその人自身にかけた魔法が、知らず知らず自分にもかけられていた、そんなファンタジックな感傷も感じられて、とても甘美です。
出水ぽすか:ふたの部分を上から見た図が好きです!作中では吹き出しなどの一部にその要素をとりいれてます。
その際、年代によってかなりボトルのフォルムが違うこと、特にふたの形状は振れ幅が広く感じました。
香水が液体のまま使用するものとミストになるもので、クリスタル型のキャップの内側に透けて見えるノズルが違いますが、ミストのものはノズルを抜いたときに、中に泡が入ったような湾曲したガラスの光の屈折がすごく綺麗でお気に入りです。(特に真横から見たとき)あの光り方を表現できれば良いのですが…!
白井カイウ:1章の主人公は、読書と空想が大好きな少女。彼女は母親と二人暮らしですが、大好きな母と自分が望む分だけ一緒にいることはできません。そして自分が翼を持たずに生まれてきたと思っているような子です(※翼とは、何か誇れるもの。才能・美貌・栄誉その他何かしらの強味のような)。
ガブリエル シャネルも読書が好きで生涯たくさんの本を読んだと聞きました。空想も好きであったと。また、ガブリエルは貧しい境遇に生まれ、12歳の時、病で母を亡くし、父はガブリエルとその姉妹を修道院に預け姿を消してしまったといいます。1章のキャラクターは、修道院で己の置かれた環境を睨み据えながら、本を読んで、世界を広げ、まだ何者でもなかったころのガブリエルに着想を得て生まれました。
2章の主人公は、オシャレと自由を愛し楽しむ女性です。メイクが達者で日々の気分で顔や着る服を変えまくります。ガブリエル自身、色んな恰好を楽しんだと聞きます。そんなガブリエルのオシャレを楽しむ部分、型にはまらない女性であったところ、あとはガブリエルが本当のことをすべていわないこともあり、実体が一見してでは掴みきれないところ、No5さながら謎めいているところ、などから着想を得ました。そうしてかつてガブリエルが今の時代の女性たちに与えた自由を存分に享受し楽しんでいるのがこのキャラクターです。
3章は、自分の顔・体に強くコンプレックスを抱いている少年が主人公です。世界に息苦しさを感じています。ガブリエルも彼女が生きた当時の流行、当時の(フランスの)一般的価値観からは幾分離れた体型や美的感覚で生まれ育ったと思います。ガブリエルは、自分の着たいもの、したいこと、こう在りたいという姿を貫いて、人々を魅了し、世界の価値観の方を変えていきました。3人目の彼が着想を受けたのは、そういったガブリエルの反骨と、もう一つ、ガブリエルの愛憎が表裏一体ないまぜになっているようなところです。
白井カイウ:凄かったです。とても素敵でした。
色々と素敵なところがあったのですが、まず会場に入ったところにある鏡の装飾が素敵でした。そして会場内にある3つの章の入口となっている、額縁が掛かっている壁がとても格好いいのです。ガブリエルさんのアパルトマンをVRや写真で拝見していたのですが、そのガブリエルさんのアパルトマンの雰囲気がすごくあります。アパルトマンを思わせるイメージの額縁がたくさん飾られていて、まず額縁だけでも心躍ります。その額縁に、ガブリエルさんの言葉や写真など、色々なアイテムが収められていて、その選り抜きがまた絶妙です。それぞれの章の展示も、作品がきれいな発色の大きなパネルになって展示されていますので、マンガのサイズで見るのとは違う世界を、そこで見ていただけます。また、その展示スペース内にちりばめられている、ガブリエルさんに関する資料なども、レアで素敵なものがいっぱいあります。マンガを深く読み込んでいただくうえでも、シャネルの世界を知っていただくうえでも、ものすごく素敵な展示になっていて、本当に心躍りました。
出水ぽすか:まず鏡の装飾から展示スペースに入る演出が、宇宙的というか神秘的で引き込まれます。私が驚いたのは、作品のカラー部分の発色の鮮やかさでした。一瞬ディスプレイなのかと思うくらい。印刷方法と光の加減、会場の照明の当て方なのでしょうか。どうして、あんなに鮮やかに見えるのか分からないところもあるのですが、まわりとのコントラストのつけ方ですとか、作品が浮き出しているように見えるようなプリントがすごく印象的でした。 そして、入口の額縁は、私もすごく感動しました。1章に登場したお城の中がこんな感じだったらいいなあ、なんて。すごく夢がある感じです。そこにいつまでも居たくなるような感じが凄く良かったです。
白井カイウ:入ってすぐの鏡の装飾、額縁の壁、それぞれの章のお部屋、全部見ていただきたいです。本当に素晴らしい展示にしていただきました。マンガを読んで何か感じていただけたら、それは嬉しいですが、さらにマンガにプラスして展覧会で奥行きが生まれています。ガブリエルさんについて、シャネルというブランドについて、どういうふうに私が考えたのか、どこから着想を得たのかということが、展示に表現されています。作品にぴったり合うガブリエルさんの言葉などが展示されていたり。そういう細かいところから、フランスから取り寄せられた貴重な資料、例えば昔のVOGUEですとか、古い年代のリップスティックですとか、そういう素敵なものもいっぱい展示されているので、見ていただきたいです。 あとは、会場内に出水先生が絵を描かれたのですが、あれは、壁に、垂直に、出水先生が一発描きされたのです。描いたものが貼られているわけではありません。これは本当に凄いので、是非ご覧ください。
出水ぽすか:会場内の壁に直接絵を描いたので、是非見ていただきたいです。たくさんの方が見守る中、緊張しながら描きました。そして、展示されているマンガにリンクして、壁に下書きがあしらわれています。下書き自体にも、色を変えたり、反転させたり、色々な演出がされているので、是非完成稿と合わせて楽しんでいただけたらと思います。
取材協力:株式会社集英社 週刊少年ジャンプ編集部