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FEATURED

2020.10.9 FRI

Pygmalion

シャネル・ピグマリオン・デイズ 2020
平間 今日志郎 インタビュー

選ばれた5名の若手演奏家たちに、リサイタルの機会を提供するプログラム、シャネル・ピグマリオン・デイズ。今年は新型ウイルス感染拡大防止のため年内の公演中止が決定していますが、来春のコンサート再開をお待ちいただく間にお楽しみいただけるよう、10月16日(金)より5週連続で、5名の参加アーティストたちのコンサート映像をオンライン配信いたします。配信に先立ちまして、初回に演奏を披露してくださる、平間今日志郎さん(ピアノ)のインタビューをお届けいたします。

  


 

平間 今日志郎(ピアノ) Kyoshiro Hirama
シャネル・ピグマリオン・デイズ2020 参加アーティスト

1998年生まれ、大阪府出身。第7回仙台国際音楽コンクールピアノ部門第5位、第69回全日本学生音楽コンクール全国大会高校の部第2位及び横浜市民賞(聴衆賞)、PTNAピアノコンペティションF級金賞、Jr.G級金賞、第22回松方ホール音楽賞選考会奨励賞、第9回堺国際ピアノコンクールD級第1位、第1回寝屋川アルカスピアノコンクール高校生部門第1位及びソロ部門グランプリ、第4回デザインKピアノコンクール第1位など数々のコンクールで入賞する。仙台フィルハーモニー管弦楽団、サンパウロ青少年交響楽団、ウズベキスタン交響楽団等との共演をはじめ、国内外で数多くのコンサートに出演。寝屋川市芸術スポーツ功労表彰及び寝屋川市教育委員会特別功労表彰を二度受賞。2017~2019年度ヤマハ音楽振興会音楽奨学支援奨学生。これまでに小嶋浩子、クラウディオ ソアレス、上野真、スタニスラフ ユデニッチの各氏に師事。大阪府立四條畷高等学校文理学科を卒業後渡米し、パーク大学International Center for Music卒業。在学中、大学内成績優秀者に送られるthe Benny and Edith Lee Music Scholarship受賞。現在、同大学院修士課程在学中。

10月16日(金)からスタートするコンサート動画配信シリーズに登場する、シャネル・ピグマリオン・デイズ 2020年参加アーティストのピアニスト、平間今日志郎さん。4歳でピアノを習い始め、小学生の頃からPTNAピアノコンペティション全国決勝大会で数多くの賞を受賞し、2015年全日本学生音楽コンクール全国大会高校の部では第2位と横浜市民賞を獲得するなど、早くから高い実力を認められてきました。2019年に行われた、仙台国際音楽コンクールピアノ部門で第5位を受賞し、セミファイナルとファイナルで演奏した3つの協奏曲は高い評価が寄せられました。日本の進学高校を卒業したのち、アメリカ・ミズーリ州のパーク大学に進学し、現在は大学院に在籍中。スタニスラフ ユデニッチ氏の指導を受けながら、広大なミズーリ川を望むカレッジで学ばれています。ピアノを弾く姿は喜びに溢れ、鍵盤から飛び出す音は変幻自在。途轍もないスケールを持った22歳のピアニストです。

平間今日志郎さんが通うパーク大学はミズーリ州の大自然に囲まれ、総合大学の中に音楽科があり、ピアノの試験中に貨物列車の大きな音が響き渡ることもあるといいます。

「大学のピアノ科の生徒は全学年で6人。他にはヴィオラやチェロの生徒もいますが、総勢で20~30人しか音楽科の生徒はいません。高校時代にピアノのマスタークラスなどを受ける中で、ドイツあたりに留学しようかなとも考えていました。でも、なんとなくベストな選択でないような気がして。あるマスタークラスに参加したとき、今の先生(スタニスラフ ユデニッチ氏)のレッスンを受け、ものすごく感動したんです。僕自身がもっていなかった技術や音楽観を、たくさん学ばせていただいて、この先生から様々なことを学ばなければならないと思いました。もっと上達するためには、先生の側にいるしかないと思って、アメリカ留学を決めたんです。」

「アメリカって本当に広いので、ミズーリ州といっただけで「関東」と同じくらいの感覚。僕はミズーリ州の西の方に住んでいますが、西から東へ行こうと思ったら、高速で車で5時間くらいかかります。車で20分くらいのところにダウンタウンがありますが、僕が住んでいるのは田舎なので、本当に車がないと生活できない場所ですね。大学の試験やオーディションの音源を録っているときに、急に貨物列車の「ポッポーッ」という音が鳴って、やり直しになることもあります。寮で暮らしているので、洗濯なども自分でやります。乾燥機もちゃんとありますし(笑)。今年の5月に大学を卒業し大学院に進んだので、あと2年この大学に通います」

大学周辺の風景(平間さん撮影)

人生に悔いが残らないように、自分自身で選んだ道を行きたかった、と語る平間さん。

「中学のときは勉強も好きで、普通に塾に行って普通高校に進学しました。高校の三年間は自分にとって必要な時間だったと思うのですが、ピアノを勉強のせいにしたり、勉強をピアノのせいにしたり…と、もっと何事にも真摯に向き合わなければいけなかったと今になって思います。覚悟が座っていなかった。高校2年くらいのとき、やっぱり音楽の道に進みたいと思って、迷った末にメジャーな留学先ではないミズーリ州の大学を選んだのです。総合大学の音楽科なので、カーティスやジュリアードやボストンなどのアメリカの有名音楽大学とは全く違います。音楽大学だったら指揮法や楽典など専門的に色々学ぶことがあると思うのですが、4年間で音楽史2学期分と楽典4学期分以外、勉強系の音楽はなく、卒業するための単位を取るために、国・数・英・理・社の授業をその他のネイティヴの生徒たちと一緒に受けなくてはならなかった。大変でしたが、なかなかこういう機会もないし、英語も学べるし、アメリカや多国籍の人々と触れ合えたのはよかったと思います」

アメリカへ渡っていなかったら、自分の人生観は大きく違っていただろう…と平間さん。言語や文化の違う場所で一から学ぼうとする姿勢には、楽な道より試練の多い道をあえて選ぼうとするストイックな理念を感じます。ピアノを始めたのは4歳のとき。瞬く間に才能のきらめきを見せ、コンクールで頭角を表していきます。

「両親は音楽関係の仕事ではなく、僕には姉がいるのですが、母が言うには姉のピアノレッスンの見送りをしているときに「自分もやりたい」と言ったらしいです。母としては野球やサッカーなどスポーツをやってほしかったみたいなんですが…その他にも習い事は人並みにさせてもらいましたが、自分からやりたい!と言ったのに、どれも2カ月で飽きてやめてしまって。飽き性なのに、ピアノだけは好きで弾き続けたんです」

「普段は楽しく弾いているだけでしたが、コンクールのシーズンになると真剣に練習していましたね。3月くらいに課題曲が出るんですけど、コンクールの準備をしている期間は、先生に教えていただいている恩返しは演奏でしか返せないから頑張りなさいと言われていました。少なからず結果はいただいていたので「頑張ったら結果が出る」というモティベーションがあったんだと思います。あと、僕は関西に住んでいたので、コンクールに参加して全国大会に出場できると東京に連れて行ってもらえるという楽しみもありました。ディズニーランドへ行ったり、昔だと東京タワーを見に行ったり。コンクールそのものは、いい結果が出れば嬉しいものの、どちらかといえば諦めの早いタイプで、良くも悪くも固執しないタイプでした」

中学時代はピアノのほか学業、部活にも精力的で、睡眠時間を削ってピアノの練習とテニス部の活動に励んだという平間さん。苛酷なスケジュールが続いたある日、ついに倒れてしまい、優先順位をピアノに置く決断をしたといいます。

「夏に帯状疱疹とマイコプラズマに罹ってしまい…子供が罹る病気ではないと言われてしまいました。知らないうちに夢中になってしまうタイプらしく、勉強も好きでしたから、部活は休んでも塾には通っていました。基本的には、本当によくいる普通の中学生だったと思います」

中学生の頃からレッスンを受け始めたクラウディオ ソアレス氏からは、個性を伸ばす自由な指導を受け、創造性豊かな平間さんはどんどん才能を開花させていきます。記録映像などで見る平間さんの演奏する姿は、とにかく笑顔で楽しそうで、コンクールの予選であっても微塵の緊張も感じさせないのです。

「よく、楽しそうに弾いてるね、と言われるのですが、実はステージに出る前はとても緊張しているんです。緊張と上手く付き合うことが課題です。コンクールでは、昨年参加した仙台国際音楽コンクールで3つのピアノ協奏曲を弾いた経験が、自分を成長させてくれたと思います。あのコンクールに出る前は、ピアニストの職業的な大変さに直面することがなかった。何度もオーケストラと本番をこなしていくには、演奏技術も必要ですが、精神的なタフさが必要なんです。そこで自分の未熟さを痛感し、全然足りていないと気づきました。またコンクールは記者や聴衆の声も聞こえてきますから、そういうのが励みにもなるけれどプレッシャーにもなる。どのような条件下でも自分が勉強してきたことを100%発揮できるように、音楽への敬意を忘れずに信念を持って演奏することができるようにならなければいけないと思いました」

演奏姿が楽しそうに見えるのは無意識。作曲家によってはその演奏スタイルがうまくかみ合わないこともあるといいます。

「音楽的な軽さや朗らかさではなく、自分の個性が出てしまうので… 音楽が移ろう中でちょっとしたニュアンスを聴かせるとき、なんでもやりたがる性格なんです。自分が聴かせたいメロディを出しすぎてしまうこともあり、そういう面でモーツァルトやシューベルトなどのドイツ系の音楽はまだまだ向き合うべきことがたくさんあると思っています。リストやラフマニノフなどは、その点で今の自分に合っている作曲家だと思います。シャネル・ピグマリオン・デイズのコンサートシリーズでは、自分の得手不得手にかかわらず多くの作曲家の曲を取り上げようと思っているので、皆様に演奏をお聴きいただくときには、成長した姿をお見せ出来るようにしっかり準備していきたいと思います」

10月16日(金)より公開されるコンサート動画では、生誕250年を迎えたベートーヴェンのピアノ・ソナタ2曲(『熱情』と『悲愴』)という大曲を披露してくださいます。

「パーク大学で指導を受けているスタニスラフ ユデニッチ先生と話し合って、向き合っていく曲を選んでいます。ユデニッチ先生はウズベキスタン出身で、ラフマニノフやプロコフィエフなどをよく弾かれるので、僕が大きいロシアものを取り入れることを応援してくれ、真剣に指導をしてくださいます。小さな大学で設備も完璧ではないのに、先生の授業が刺激的だから「まだまだ学びたい」と、大学院の2年も続けて勉強することに決めたんです。譜面をオーケストラ的に読んで、すべての音を聴かせて音楽を整えるという指導法で、先生は「音符に描いてあるのだから聴こえなくていい音はない」と仰るのです。最初はとにかく全部の音を強く鳴らせと指導されたので、「音が汚くなった」と言われた時期もありました。でも、例えば声部が二つあったとして、ひとつはヴァイオリン的に、ひとつはホルン的に鳴らせば、聴衆には汚く聴こえない。そういう授業を受けて、先生から技を盗んでいます」

10/16配信コンサートの収録風景(シャネル・ネクサス・ホールにて)

10/16配信コンサートの収録風景(シャネル・ネクサス・ホールにて)

未知数の才能を感じさせる平間さん。生き生きと語る様子を見ていると、22歳の平間さんが聴かせてくれる演奏が、未来の巨匠のピアニズムであると感じずにはいられません。

「シャネル・ピグマリオン・デイズでのリサイタルは、自分の中でとても大切なプロジェクトです。2021年12月までのスケジュールになってしまいましたが、自分の音楽と向き合う時間が増えたとポジティブに捉えて、自分が経験してきたものを表現していくシリーズにしたいと思っています。様々な経験を経て、ピアニストとして今ようやくスタートラインに立てたと感じているんです」

「”個性派”といわれることがありますが、奇をてらっているわけではないんです。クラシックは伝統音楽なので、作曲家の神髄に迫っていくことは一生の課題だと思っています。その一方で、自分にしか出せない性格や経験を音楽に乗せていかなければならないとも思っています。作曲家をリスペクトしつつ、作曲家と自分を共存させていきたい。つねに試行錯誤していますが、楽しんで演奏したいです」

取材・文:小田島 久恵(音楽ライター)

 

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