フランス人写真家シャンタル ストマンは、1年にわたり、日本女性が西洋のファッションを崇拝し、追い求める姿を見つめてきました。2005年3月に初めて東京を訪れた彼女は、シャネルなどのヨーロッパ高級ブランドに対する日本女性の強迫的ともいえる情熱に興味をかき立てられました。日本の女性たちは、次から次へと熱狂的にブランド品を買い、朝から晩までファッションに支配されて生きているようでした。それが、好奇心あふれる目で日本を初めて見た一人の外国人が受けた印象だったのです。
この発見に導かれ、ファッション・ルポルタージュを専門とするシャンタル ストマンは、その後数カ月に渡って何度か東京を訪問します。そのたびに彼女が注目したのは、スタイリッシュな雑誌に載っている写真のイメージに絶えず近づこうとする、日本女性の流動的な行動でした。高級ショップに入る客たちをルポ風に追跡したシャンタル ストマンは、彼女たちがドアのなかに足を踏み入れたとたん、まったく別の存在に変身し、違う次元のペルソナ…仮面を被る様子をつぶさに観察してきました。
日本女性たちを観察し、写真を撮っていくにつれ、シャンタル ストマンは自らにこう問いかけるようになりました―日本女性たちはファッションを通じて何を探し求めているのだろうか? フランスの高級品を買うことにはどんな意味があって、どんな価値があるのか? 10代になったばかりの少女たちが、アクセサリーを所有したいと願う動機は? ファッションへの情熱や強迫観念は、日本女性の人生や心をどう支配しているのか?
シャンタル ストマンは数十人の日本女性と会い、彼女たちを駆り立てる動機や、ファッションへの熱烈な愛を理解しようと試みてきました。そして、こう考えるようになったのです。「日本の女性たちは、ファッションを独特の芸術作品として見ている。そしてそれは彼女たちにとって、ほかのどんな創作物よりも優れたものなのだ」と。
そもそも、シャネルをはじめとするヨーロッパ高級ブランドと日本女性との結びつきにシャンタル ストマンが興味を抱いたのは、パリのファッションショーを見たことがきっかけでした。世界中のファッション編集者やバイヤー、写真家が集まる魅惑的なショーのさなかに、本当の顧客はいったい誰なのだろう、という疑問が湧いたのです。このパリのステージを華やかに彩る高級衣料を最終的に買うのは、いったいどんなスタイリッシュな女性なのか?日本人―パリやミラノから遠く離れ、ヨーロッパの外にいる日本人こそが、高級ブランドを誰よりも夢見て、渇望しているのです。シャンタル ストマンの非凡な写真は、ヨーロッパの高級品が日本女性のワードローブの中に真の故郷を見いだすさまを浮き彫りにしています。
いかなる答えも望まない、いかなる判断も示さないシャンタル ストマンの写真は、ただただひたすらに西洋のファッションを追い求める美しくてエレガントな日本女性を、ユーモアと魅力たっぷりに描き出しています。